ヘブンリー・ブルーX
著者:HOCT2001


 自分でボードを削った次の日の早朝、ボードの調子を見るために沖へとでた。今日はなかなかいい波で3メートル近い波が含まれているセットなんかが普通にある程度だ。
さて、波に乗るか、というところで重大なミスに気が付いた。ロープ持ってきてねぇじゃねぇぇぇぇかよーーーー。

 ここで言うロープとは、サーファーの足とボードを結ぶものでこれがなければサーファーの生死にかかわる。とっさにボードにつかまったが今日の波はそれも許してくれないらしい。
海の中にぐいぐいと引きずられていく。がぶがぶと水が肺の中に入ってきて息もできない。見渡せば水がぐにゃぐにゃしている。そのいびつな水も、見え…なくなって…いた。


 幻想を見ていた。
 
 暖かい教室で受けるゾエさんのわき道にそれまくった授業を。

 俺のつまらないサーフィンの話を真剣に聞いてくれている小森さんを。

 おせっかいを焼きまくる日生さんを。

 一緒にバカをやっている飯田を。


 あぁ、これが『死』ってやつか。きてくれるのが早すぎるんだよ、このバカが。空気読めよな、まったく。
そこで完全に意識が途絶えた。


「………かい?」
「大……かい?」
「大丈夫かい?」

 ん?おれ生きてる?なんで?

「声が出せたら答えてもらえるかな?」

「状況はわからないですが、声は出せます」

「そうか、それはよかった」
「どうなってるんですか?オ…じゃない、僕は海に沈んで死んだものかと思っていましたが?」
「君の伯父さんが海上保安部へ連絡を入れてくれて救急車で病院で蘇生処置をしたところだよ」
「そうですか。助かったんですね、僕」
「まったく、本当に運がよかったよ君は」
「これから学校へいけますか、僕は?」
「一応安静をとって今日一日、日帰り入院してもらうことになる」
「そうですか」

 まぁ、死に掛けた人間が学校へ行くのはどうかとは思うけど、なんか寂しいなぁ。一応ベッドで安静に、ということになっているのでテレビをつける。
この病院はテレビがプリカではないという良心的な病院だ。それにしても、この時間、主婦向けの情報番組しかやってないぞ。退屈だから観るけど。
それにしてもテレビショッピングなんかを見ているとすべての健康食品を食べないと長生きできそうにないな。どうでもいいけど。さて、と、少し寝るか。



 夢はみなかった。当然だ。体中が疲れているから夢を見るような浅い睡眠などできるはずもない。
でも…、こんな時くらい夢を見てもいいじゃないか。

 そんなことを考えていると、病室のドアが開き、

「和樹、見舞いに来てやったぞー」

 と、飯田が入ってきた。

「それにしてもお前が海でおぼれるなんてな。どした?」
「まぁ、サルも木から落ちるってやつでさ」
「ふぅーん、お前サル?」
「のやろう」
「まぁ、何はともあれ無事でよかったな。見舞い品は持ってこれなかったがバナナかって来たから食え」
「よほど俺をサルにしたいんだな、お前は」
「別にそういうわけじゃねぇよ、コンビニ行ってきたらバナナしか売ってなかっただけ」
「なら好意に甘える」

 うむ、普通にうまいな、このバナナ。やわらかすぎず、硬すぎず適度な甘みが口の中に広がる。飯田のやつ、意外といい奴なのかもしれん。
飯田よ、お前の好感度が俺の中で上がったぞ。まぁ、『バカ』というカテゴリから外れたわけではないが。

 最後のバナナを食べ終わると飯田は席を立ち、

「じゃ、俺そろそろ帰るわ。そろそろエロ本の隠し場所を変えないとお袋に見つかるという愉快ではない話になるからな」
「そーかそーか、ま、見つからん場所をよく考えとけよ。」

 そういって、飯田は帰っていった。それにしても凄い早さだ。よほど心配なのではないかと思える。

 俺はどうするかな。退院までは少し時間があるし…
テレビを見るのもつまらないし。やはり、伯父さんが来るまでは寝るか。

 と、思っていると、看護士さんが部屋にはいってきて、
「伯父様が迎えに来ていますよ」
といった。

 来るの、はえーな。まぁ、自分の妹の子が入院したとなれば心配もするのだろう。荷物などは一切ないので、詰め所によっておじさんが入院費を払って病院をあとにする。

「それにしても、お前ロープ忘れるなんて若年性健忘症じゃねぇか?」
「ちがいますよ。ただ、自分が削ったボードで海に行くのが楽しみで忘れたんです」
「それにしてもだな、心配させられたこっちのみにもなってみろよ。死んだかと思ったぞ」
「すみません」
「そういえば学校でお前のこと心配しているやつら、多いらしいぞ。放課後だがちょっと寄っていくか?」
「そうしてください」

 そして伯父さんの車は彩桜学園へと向かっていく。ちなみに俺が入院していた病院は大学部の附属病院なので彩桜の近くだったりする。10分もせずに到着すると、伯父さんに、

「んじゃ、ちょっといってくるわ」

と言って車をあとにした。

 まずは、担任の村本先生に報告しないとな。村本先生は国語準備室にいるかな?B棟の3階が国語準備室だ。
疲れた身体には厳しいが、とりあえず階段二つ上って行ってみる。すると、ビンゴ!!村本先生がいるじゃないか。とりあえず謝罪をしないと。

「村本先生、泉です。今日はご心配をかけて申し訳ありません」
「いいんだよ、死んだり、重態になっていない限りはね。でもこれからは気をつけろよ」
「はい!!」

 次は自分の教室だ。誰が残ってるかな。扉を開けると…

 小森さんと日生さんがだべっていた。とりあえず声をかける。

「どーも、泉です。さっき帰ってきたんだけど…だれもいないかなぁと思ったら誰かいて無駄足踏まずにすんだよ」

 すると小森さんも、日生さんも笑顔で、

『日帰り入院って聞いていたから、こっちに顔を出してくれるかなぁと思ってちょっとだけまってみることにしたんだよ』

 なんともうれしいお言葉。まぁ、ここ数日いろんなことが色々あったから彼女たちの俺に対する友好度があがったんだろうなぁ。


「それでも、すぐ帰るって言う選択肢があったのにまっててくれたの?」

 すると、日生産は意地悪げに、

「いやーー、鏡子の顔を必ず見に来てくれると思ってね」
「だーかーらー、そんなんじゃ…」

 と、俺が言いかけたとき、彼女はこっちに命一杯の笑顔を向けて、

「では、邪魔者は帰りますわ」
  と言って教室を出て行った。

「楓、何なのよー、まったく」

 と、小森さんは嘆息して言った。こっちもため息が漏れる。普段はいい娘なのにここ一番で余計なお世話を焼くのはどうかと…

「日生さんもなんだか帰って言ったみたいだし、俺たちも帰ろうか。坂の交差点までは一緒だろ?」
「うん!!!!そうだね」

 というわけで、玄関で靴をはいて小森さんと下校する。

「それにしても、ホント生きていてよかったね」
「いや、さすがの俺も死んだかと思ったよ」
「でも、生きていることが大事。どんなにつらくてもね」
「そうだね。つらい思いをしてまで生き続けようとしている人がいるんだ、ちゃんとしないとね」
「あ、そろそろ交差点だよ。じゃぁ、また明日会おうね。事故なんか起こしちゃダメだよ」
「まぁ、今日が今日だっただけに、ね。事故には気をつけるよ」

 そうして小森さんと別れた。

 伯父さんの家に着いたとき伯父さんから厳しいーーー説教を食らったのは言うまでもない。



投稿小説の目次に戻る